各プロジェクト

アマラ・サンクチュアリーリゾートホテル
シンガポール

敷地面積:27,456.19m2 / 建築面積:5,491.24m2 / 延床面積:13,728.10m2
用途:リゾートホテル
ロケーション:シンガポール共和国

このプロジェクトはシンガポール、セントーサ島に建つ高級リゾートホテルである。

セントーサ島のもつ常夏のリゾート性とシンガポールと言う都市性と言う対局するキャラクターの両者を昇華することで、新しいトロピカルリゾート、アジアンリゾートの形態を模索するものである

2007年第一期工事、2009年第2期工事が竣工し現在、2011年8月竣工、第三期工事が終了し最終的な完成を迎えた。

2003年イギリスとオーストラリアの設計事務所、丹下都市建築設計、そして弊社の合わせて4社での指名コンペが行われ、最終選考の結果、設計・現場管理業務を受注する。

第一期工事竣工後、シンガポール政府より2007年度コンサベーション・アオード受賞、また翌年には、2008年度アジア・ベストリゾート賞受賞と度重なる栄誉に輝いている。

今でこそ、日本にもワールドブランドのホテルオペレーターによるファイブスターホテルがでそろったようだが、香港同様、シンガポールは日本より一早くからこうしたハイエンドホテルが進出している。しかし、ことリゾートホテルとなると事情はいささか異なる。同じ常夏の環境ではあるが隣国のインドネシアのバリにそのマーケットを奪われている。こうしたバリのリゾートホテルとしての成功モデルはアジアの各国に伝播し今日ではマレーシア、ヴェトナム、タイ、フィリピン、ミャンマーなどに同様のコンセプトのリゾートホテルが展開している。こうした状況の下、セントーサ島にビラをもつリゾートホテルはシンガポール初の試みと言える。

敷地内には、コンサベーションブロック(歴史的保存建築)に定められているコロニアル様式の既存建物がある。これは第二次世界大戦前に駐留していたイギリス軍士官の兵舎である。これを残してリゾートホテルへ変貌させるという課題があった。思いのほか建物の状態は悪く、ただ復元して残すと言うだけでなく、そこに新しい価値をどう生み出し再生するかが一つの命題である。当地にはコロニアル様式のホテルとしてとみに名高いのがラッフルズホテルである。都市性を背景にするラッフルズホテルに対し、リゾートコロニアルとして甦らせてみてはと言う発想から、アウトドアジャグジーとアウトドアダイニングスペースと言う機能をプライベートガーデンスペースに設けてみた。

また、ビラは、バリニズムのコピーではなく、日本家屋に見られる深軒を設けることで、軒下スペースの魅力を探る一方、オリジナリティーの高い形態作りにも一役担うとともに、激しいスコールから開けっぱなしの窓を守ることも可能にした。プロジェクト全体の容積率をコントロールしながら、あえて、バスとシャワーを屋外のプライベートガーデンスペースに設置し、(上段真ん中の写真)非日常的体験の中にリゾートライフを満喫できればと考えた。プランジュ・プールの中にジャグジーを設けたのもこの一連のテーマに基づいたものである。

これらのデザインソルーションは、スパをはじめ“癒しの場”としてのリゾートホテルに、“非日常的空間や時間”が送れればとかねてより考えていた一つの実験的試みである。エントランスロビーの上部には水盤があり、このロビーにある天空光はこの水盤を通して太陽光が降り注ぐ、日差しを弱めるだけではなく、水の波紋がロビーの床に影として広がり太陽の動きに合わせて、表情をかえる、まさに日時計のようである。リゾートでは時間を忘れたい一方で穏やかな時の移ろいを楽しむことも重要な要素だと考える。そしてこの波紋は時として風のいたずらでその表情を変え、屋内に居ながらにして光と風を感じることができる。光がもたらす緑の翳や耳をすませばきこえてくる風の音もできるだけ積極的に建築空間に取り入れてみた。ロビーから宿泊ブロックに至る穏やかなスロープ部分にはあえて中心軸を外し、曲率を変えながら、外気に触れることのできる外部環境を取り込む、これはリゾート本来の自然環境の特性を生かそうという能動的試みが故のプランニングである。

こうしたリゾートコロニアルと言う側面を模索する一方で、都市的機能としての役割を持つアーバンリゾートの側面も兼ね備えているのは、その立地条件にある。セントーサ島は都市中心部から車でおよそ10分、シンガポールの玄関口であるチャンギ空港からは車で約20分、MRT(地下鉄)も乗り入れており、南国の島でありながらも決して不便な場所ではない。そうなると、国際会議やセミナーそして婚礼などのコンベンション・ファシリティーとしての機能は見逃せない。ただ、シンガポールの都市部のホテルのボールルームは充実している以上、同様の切り口でアプローチしても意味がない。提案したボールルームには外部空間と接点が持てるよう開口部を設け、開放感のあるものにしているし、また婚礼については、ガーデンウエディングと言うコンセプトを提案している。日本もそうであるがシンガポールでも室内の宴会場で婚礼パーティーが催されるのが日常で、それは年々豪華になっていく傾向にある。ただ街中であれば 箱ものでも仕方がないが、せっかくの自然あふれる環境の中、それを生かさない手はないと、ガーデンスペースの中に透明のアクリル製の椅子を持つガラスチャペルを設けている。ガラス越しに見える緑の環境、その奥にはカスケードを設け、チャペル越しに見える水の表情は、水の奏でる音とともに神秘性を放っている。食事は隣接するキャンティーンから提供するため、立席でのパーティーにも対応できる。年間をとして比較的温暖な気候のシンガポールであればこそ可能にしたこのアイディアだが、思いのほか好評で、ウエディングだけでなくセミナー、映画の試写会、雑誌のインタヴュー、ミニコンサートと今では用途は多岐に渡る。週末はもちろんウイークデーでもガラスのチャペルには人と生演奏による音楽が溢れている。不思議と訪れる人の心を幸せな気持ちにさせる、そんな雰囲気が森の中には立ち込めている。

第二期工事のオフィスとスパ・ジムブロックでもガラスの仕上げを採用している。オフィスブロックには黒に近いダークブラウンの熱線反射ガラスを使用し端部にはむくの木を押さえに用いることでオーガニックなテイストを持たせている。前庭にはジンジャーガーデンを配置、この生姜の花と葉でできた緑のトンネルをくぐり抜けるとオフィスへたどり着く仕掛けになっている。モダンなテイストであるにかかわらず保存建物とも違和感のない不思議な調和をもたらしている。こうしたガラスと言う素材は緑と呼応しあいながら不思議な魅力を放っている。

第三期工事は第一期工事と同様にコンサベーションブロックをホテルのスイートに変身させることが主目的である。第一期ではジャグジーやダイニングスペースをプライベートガーデンスペースに設けたが、今回はプライベートスペースのさらに奥の外部に通じる引き違いのドアの向こうに50メートルの長さを持つプールを配置している。朝、起きればそのままプールに飛び込むこともできるし、また夜、扉を開けておけば照明が踊るプールの水もに呼応をする光や涼しげなそよ風、そしてまどろみまでもが部屋に訪れる。さらにその向こうに見えるビーチとシームレスにつながる眺望さえもが部屋にまで取り込めるようになっている。

こうして最終的な完成2011年8月に迎えたシンガポールのリゾートホテルは、建築が自然環境を壊せずにその両者の価値や個性を高め合いながら、より高次な次元へ誘ってくれるそんな魅力あふれるアイランドリゾートなのである。